渡来宏明 『How to Rock』 全曲レビュー
また、渡来宏明くんのアルバムのミックスをお手伝いしました。時間が経ち、ようやく、ある程度は客観的に聴けるようになったので、レビューをしていきたいと思います。
『How to Rock』のアルバム制作は、1年以上にわたるプロジェクトで、時間のある週末には、オーバーダブの試行錯誤を含めてのアレンジ・ミックス作業を2人で行ないました。途中、彼が家に来るたびに、「あいつ、来すぎじゃね?」「そういう言い方はないだろ、おまえなんかより全然付き合いは長いんだよ!」といった、夫婦の小競り合いも数度ありましたが、アルバムも無事完成し、今は何も言うことはありません。
やたら時間を掛けたミックス作業に比べると、最後は完全に飽きてマスタリングがけっこう適当なかんじになってしまったのが、エンジニアとしては悔いが残るところですが。(えっ、マスタリングもぼくがやるの?という話もありますが……)
友達のふりで
オープニングチューンにふさわしい曲調ですね。準備体操ができていないキッズを置き去りにするかのような疾走感。
彼のロック技能と浮気願望のすべてがここに詰まっていますね。いわば、名刺代わりの一発。
スノーバニーズ
あの頃の元気だったJALさんに、スキーのCM曲として流して欲しいかんじですね。
この曲は、アレンジを重ねていくにつれ、雪のキラキラしたイメージが徐々にできあがっていくのが楽しかったです。ほぼ、意図どおりのエンジニアリングができたので、ぼくのことも褒めてほしいですわ!
聴きどころは、ぶいぶいと全体のドライブを引っ張っていくベース。普通のとファズと2本をミックスして鳴らしています。
イッツアミラクル
直球勝負のごきげんナンバーと思いきや、Strawberry Fields Foreverばりにテイク数の多かった難産曲。ロイクのものまねは難しい。
聴きどころは、リズムギター群のおりなすキレのあるグルーヴ。そして、ミックス過程で遠くに追いやられたところで鳴っているストリングス。
ブルー
演奏と録音がうまくいっていたため、簡単に完成した曲です。
このリズム隊は、日本人にしてはシャッフルがわかっています。
オルガンはコンボっぽい音が良くなっているのですが、B3みたいなのが嫌いなわけではなく、彼の所有しているカシオトーンではこの音しか出せないからです。
愛は素敵なもの
これはお気に入りの曲です。直球のエイトビートと思いきや、Bメロでの「右往左往」の長言葉選び。サビで12弦ぽく鳴っているカウンターメロのオブリもぐっときますね。
密度のある中、楽しめるところが多い曲。それでいて短く終わる。エンディングでの歌のコールアンドレスポンスで曲が終わった瞬間に、勢いよくがっついていたロックンロールのどんぶり飯の前にビシッと箸を置くイメージですね。ごちそうさまでした!
ロックンロール電波
このアルバムのフィジカル担当の最たる部分。
エンジニア視点だと、一番録音がよくなかったという印象の曲。サウンド的にはThe Whoみたいのを目指していましたが、音を飽和させずに、ダイナミクスを出すことに苦労しました。
間奏部分最後のジャン・ジャック・バーネルのようなベースのパッセージが好きです。裏拍の最後の最後のところまで粘れているのが、彼のベースの演奏の良いところですね。
あんなに愛しあったのに
コーラスグループのような掛け合いと、リードボーカルのファルセットボイスは、日本人では、不仲でなかったころのビジーフォーくらいしか再現できませんね。
少ない音でアンサンブルがまとまっていて、録音の素材も良かったです。こういうのを評価すると、玄人っぽいぜ!
僕は名優
これは好きですねー
ただ、これも難産曲で、いろんなオーバーダブを差し替えました。
イントロ、左側で鳴っているシンセベースみたいなのは、ショルキーの音です。「インベーダーみたいにかっこよくなった!」とCDRを彼が持ってきたときのことを良く覚えています。
非骨太系のJellyfishなんかも好きなファンとしてひとつだけ要望があります。せっかくAメロがシンプルなアレンジなのだから、2コーラス目では余計なオブリをたくさん放り込んで欲しかったですね。(彼の機材的な事情で難しい部分もありますが。)ロックの現人神(または街の聖者)こと、渡来くんがステッキを振りながら行進していると、だんだんと仲間が増えていくイメージのアンサンブル!
あと、ギターソロのOKテイクを初めて聴いたときは、お前ばかだろーって、本気で思いましたね。大サビの神々しくもあるコーラスワークも大好物です。
美しい僕の彼女
彼はこういうやつが一番得意。やっぱりシャッフルです。この曲が一番苦労なく、素の才能で作り上げているかんじがしますね。
ギターソロはオケの構成を含めて、このアルバムでのリードワークの一番の聴きどころだと思います。けっこう難しいこともやっています。(中高生は『ネイキッドガール』のエンディングを楽しみましょう!)
ネイキッドガール
初めて聴いたときに、「もっと現代的な音にしたら、フランツフェルドナンドっぽくなるね!」と指摘したら、彼はそのバンドを知りませんでした。
先輩の真田さんのドラムをたくさんいじらせていただいた曲。「ディスコパターンなのに、バスドラにパンチがない!」と、手でひとつずつサンプルを置いていったりもしました。(次回はミックスの自由度を高めるために、ドラムをパラで撮っていただきたいですね。ぼくはミックスしませんが!)
31
シングル切るならば、これですね。
こういうのを聞くと、彼はギターをシャープに鳴らす技術に優れていると思いますね。
ナッヂとしての真田さんも得意そうなパターン。もちろん、僕も好きです。
ちなみに、アルバムが発売されたときには、彼は既に35歳になっていました。
恋はネバーエンド
これは詰まっている音の数でも想像できますが、苦労しました。でも、目指すべき方向というか、最終的に鳴るべき音はイメージしやすいので、面倒くさいだけで、あまり悩まないパターンですね。
彼はシンセを持っていないので、オーケストレーションをファズギターの重ね録りでしか対応できないため、こういったポップ偏執者のような仕上がりになります。(前作『秘密のメロディ』同様に。)
これでフィジカル的な強さが不足していたら、「ティーンのためのロックンロールバイブルを作る!」と言い遺して死にそうですね。おっさんが休日の限られた時間で、自室にこもって、このアンサンブルを作り上げている姿を想像するだけでおもしろいですし(一部のテイクで、彼の奥さんが掃除機を掛ける音などがカブっています!)、みなさんもCDを買うべきです!と強く言えますね。
















